哀しい恋の物語

紫の履歴書
あああ、涙が止まらなかった。


「黒蜥蜴」を鑑賞してきたのです。
美輪様の美しさ、心地のよいクラシックな日本語のセリフ、豪華で耽美でそれでいて
合理的な舞台美術。
心に残った場面はたくさんある。
船の上のうす雲のむこうに輝く星。
黒蜥蜴は黒いベルベットのドレス。
スカートには夜空の星のようにクリスタルが散りばめられてキラキラ輝く。


黒蜥蜴は王女様。
小人のピエロを両脇に従えて、虎の毛皮が敷かれた長椅子に座っている。
黒い国の黒い女王様。
美しいものを愛し、それをコレクションする。


黒蜥蜴は恋を知らなかった。
あの人に出会うまでは。
でも恋を知った喜びとその恐ろしさの間でおののく。


死をもって終焉を迎える物語。


カーテンコールで黒蜥蜴は恋しいあの人に手を引かれて現れる。
その時、彼女は美しい白いドレスを着ている。
まるでウエディングドレス。
物語の外側でしか結ばれない二人。
そう思うともう涙が止まらなかった。
哀しすぎる恋の物語。
ワタシは忘れていたのです。
これは「恋物語」だったってことを。

最後に美輪様は客席に向かって手をあわせておじぎを。
あぁ滅相もない。ありがたいのはこちらです。

客席が明るくなる。それでもまだぽろぽろと涙が。
ふと隣を見ると、Hさん、あなたも泣いているのね。
泣いてるのワタシ達だけのようね。